北海道の南東部、釧路市と根室市のほぼ中間にある厚岸町は厚岸湾とそれに続く厚岸湖を抱くような地形を持ち、海沿いに市街地が広がる。
厚岸といえば思い浮かぶのは「牡蠣」。養殖が行われる厚岸湖は厚岸湾に繋がる汽水湖。別寒辺牛湿原から流れ込む川の栄養と、海からのミネラルが豊富だ。水温が低いと牡蠣はじっくりと時間をかけて育つ。厚岸には恵まれた環境に加え、大正時代から続く長い養殖の歴史がある。おいしい牡蠣は環境と生産者の努力が生む宝物だ。
だが、厚岸町は牡蠣だけではない。アサリや昆布、サンマや北海シマエビなど海の幸が目白押しだ。陸側に目を向ければ貴重な動植物の宝庫、広大な別寒辺牛湿原が広がる。ここでは、カヌーツアーやバードウォッチングなどで年間を通して大自然を楽しめる。さらに6月下旬には「あっけしあやめまつり」、7月には「厚岸夏まつり」、そして10月には最大のイベント「あっけし牡蠣まつり」がなんと10日間にわたり開催される。町外からも多くの人が集まり自慢の牡蠣に舌鼓を打つ。1年中、見どころもうまいものも尽きない厚岸にぜひ来てみてほしい。

3年前、牡蠣のまち、厚岸に大物ルーキーが誕生した。その名も「弁天かき」。生まれも育ちも厚岸だ。どんな牡蠣なのだろう。「厚岸漁業協同組合」の秋元佑太さんに聞いてみた。
「東日本大震災を機に厚岸産の親貝を使った安定した牡蠣の生産を望む声が高まったことから始まりました。厚岸町で生まれた牡蠣を0.3ミリくらいの大きさになったところでホタテの貝殻に付着させ養殖します。1年後にカゴに移し、湾内や厚岸湖でちょうどいい水温になる場所を移動させながら大きくします。出荷はさらに約1年後から。味は濃厚で芳醇な磯の香りが特徴です」
2016年、満を持して発売となった厚岸の新名物、弁天かきをぜひ試してみたい。
もう一つ、厚岸生まれ厚岸育ちの牡蠣「カキえもん」。こちらは日本初のシングルシード方式を採用している。これは、貝殻の粉末に牡蠣を一粒一粒付着させて育てるもの。4ミリほどの大きさになったところでカゴに移し、牡蠣の成長に伴いカゴの網目の大きさを変えるという手間をかけて育てる。こりこりとした噛みごたえのある味わいにファンも多い。弁天かきもカキえもんもぜひ生でいただきたい。
「マルえもん」は三陸生まれ厚岸育ちの牡蠣だ。稚貝を厚岸に運び、育て上げる。丸みがあるのが特徴で、こちらは焼き牡蠣がおすすめだ。

牡蠣を使ったうまいものも紹介しよう。「牡蠣どんぶり」は厚岸産の牡蠣を贅沢に使ったすき焼き風の甘辛味。ごはんの上にのせるだけで牡蠣丼が完成する。売り出したのは元調理師というキャリアを持つ、「髙島食品」専務の髙島昭人さんだ。
「牡蠣どんぶりより前に発売した牡蠣カレーが好評で、他にも手軽に牡蠣を味わってもらえるものはないかと考えたのが、誰にでも好かれるすき焼き風の牡蠣どんぶり。大ぶりの牡蠣としいたけ、玉ねぎ、しらたきを入れました。牡蠣の風味を感じていただくために味付けはあっさり甘めのつゆだくです」。厚岸町の道の駅「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」でも人気が高い。
「11月から翌年の7月にかけて、ちょうどいい大きさの牡蠣が出回る頃に牡蠣をボイルして味付けし、一つ一つ手作業でパックします。卵でとじて親子丼風にしてもおいしいですよ。ぜひお試しください」

次に紹介するのは北海道産の「蝦夷ばふんうに」だ。「カネマス上田商店」社長、上田敏樹さんが説明してくれた。
「北海道産の蝦夷ばふんうにを殻から取り出し、海水に近い濃度の塩水に漬けただけの自然の味です。もちろん無添加。口の中でとろけますよ」
ばふんうには主に昆布を食べて育つため、厚岸を始め羅臼、利尻、日高など良質な昆布の産地が良質なうにの産地となる。カネマス上田商店では、時期ごとに一番良いうにを仕入れるのがモットーだ。
「うにのためなら車で1000キロくらいは走ります。特に新規開拓した産地のうには自分で目利きしないと仕入れません」と話す上田さん。うにの仕入れ、加工を始めて3代目という熱血社長の厳選ばふんうにの味をご賞味あれ。

厚岸は良質な昆布の産地でもある。「瀬川食品」は老舗の昆布仲買人として厚岸では知られた存在だ。
「厚岸の昆布を知ってほしくて作りました」と話すのは社長の澤野恵一さん。紹介してくれたのは小さくて可愛いらしい包みだ。
「昆布の佃煮を京都の和紙で包んであります。中身は、厚岸産の厚みのある加工用昆布を甘めに煮て細切りにしたものです。お土産として特に女性に人気です」。可愛いだけではない。老舗昆布屋さんの手がける味はファンも多い。
「やはり炊きたてのごはんに一番合いますね。卵かけごはんにちょい足ししても美味しいです。一袋30グラム入りですから使い勝手もいいです。ごはんにのせて、おにぎりの具にちょうどいい量です」とすすめてくれた。気軽な厚岸土産にいかがだろう。

お正月にバリエーション豊かな数の子のセットはいかがだろう。「数の子食べ比べ4点セット」は定番の味つけ数の子の他にオリジナルの味が3種入った地元で人気の数の子シリーズ。
「マルトク」専務の涌井智徳さんは、「ほぐし数の子は当社独自の技術で卵をバラバラにしてあり、食べやすさと使いやすさが好評です。醤油味はカツオ出汁ベースの秘伝のたれに漬けました。軍艦巻きやちらし寿司のトッピングに重宝します。めんたい数の子はクラッカーにクリームチーズと一緒にのせておしゃれな一品に。山菜数の子は炊きたてごはんのお供にぴったりです。数の子をぜひ普段の食卓にも登場させてください」と紹介してくれた。

2018年、「厚岸蒸溜所」が初リリースしたウイスキーはあっという間に完売し話題を呼んだ。シリーズ第3弾は北海道産のミズナラを使用した樽が使われている。樽材を提供するのが「真栄木材」だ。社長の伊藤秀人さんに聞いた。
「ミズナラの木はその香りや色合いなどがウイスキー樽に適しているといわれています。当社では原木調達、製材、乾燥、幅決めまでを行います。1本のミズナラの丸太から樽の材料として使えるのは、厳しい条件をクリアしたごくわずかな部分で、使われない材料を再利用してグッズの製作を始めました」
チーズボードやコースターなど、すべてのミズナラグッズには厚岸蒸溜所のロゴマークが入っている。木目が美しく浮かび、無塗装のしおりとキーホルダーからはミズナラの香りが漂う。「蒸溜所で熟成に使う厚岸産のミズナラ樽はわずか8樽。それを考えればこのグッズの希少性はお分かりいただけるでしょう」と魅力を語ってくれた。

厚岸町ではふるさと納税寄附金の活用により、0歳から小学生までだった子ども医療費無料制度を平成30年には18歳までの子どもに拡大した。またインフルエンザ予防接種の補助金を18歳までの子どもに給付している。寄附金の活用により子育て世帯をとりまく環境は大きく向上した。
厚岸町総合政策課の鈴木さんは今後の目標について「ふるさと納税で厚岸町を応援していただくことで町内の事業者が元気になります。まちが活性化し、まちが変わっていく力にしていきたいですね。寄附者の方と生産者の交流イベントなど、つながりをさらに深める取り組みも今後の課題です」と話してくれた。
厚岸町に来てもらえる体験型の返礼品も企画したいという鈴木さん。元気な厚岸町に期待したい。