農業王国･北海道十勝。その北部に位置する士幌町は、総面積の60%以上が農用地を占め、農畜産業と酪農が地域経済を支えている。じゃがいもや小麦の生産地としての認知度の高さはさることながら、国産肉牛(ホルスタイン種･交雑種の合計頭数)の飼育頭数は日本一を誇り、乳牛も約2万頭を飼育する。

士幌町で飼育された牛の生乳は、指定団体のホクレン(農業協同組合連合会)を通して｢よつ葉乳業｣に出荷され、牛乳、ヨーグルト、バター、チーズ、生クリームなどの商品となる。よつ葉の乳製品は全国的にも高い評価を得ており、特にチーズやバターのセットはふるさと納税お礼の品でも大変人気が高い。

その一方で、士幌町の酪農家たちは牛乳や乳製品の消費低迷による生乳の生産調整、飼料(牛のエサ)高騰や乳牛価格の暴落により、大変苦しい状況に陥っている。十勝畜産統計によれば、十勝管内で搾乳をやめる農家の数は2年連続で増加、離農も増えた。

こうした状況を受け、｢何とかしたい｣と声を上げたのが士幌町内の中学校に通う生徒たちだ。まちの酪農をPRし、酪農業界が直面している課題を知るきっかけをつくりたい、もっと牛乳や乳製品を消費してもらいたいといった中学生たちの声を受けて、2023年7月9日に｢乳フェス in SHIHORO｣を開催。会場では牛乳をテーマに約30店の飲食･物販ブース等の｢乳マルシェ｣や、特選よつ葉牛乳など3種類の牛乳を飲み比べる｢利きミルク大会｣、酪農体験、牛乳パックを使ったアート作品の展示、音楽ライブなどが行われ、多くの来場者でにぎわった。

｢古田牧場｣の古田全利さんは、｢乳フェス｣の実行委員長としてイベントを主催。｢初めての試みで本当に大変でしたが、酪農家や商店街の人など業種を問わず大勢の方々の協力を得て開催できました」と古田さん。

そんな古田さんが新たに開発した商品が｢搾りたて生ソフトクリーム｣だ。

三代目として牧場を継いで16年、士幌町内でもトップレベルの徹底した衛生管理、良質な飼料選び、丁寧な搾乳を心がけて品質の高い牛乳を生産してきた。次第にそのおいしい牛乳を使って｢直接お客様の声を聞ける商品をつくりたい｣という思いが強くなってきたという。

ソフトクリームの製造を手掛けるのは、帯広市内に店を構える人気アイスクリーム店｢ル グラシエ｣の岸本友之さん。｢できあがったときの第一印象は『きれい』。見た目の美しさ、舌触りの滑らかさ、上品な味、すべてがきれいだと感じました｣(岸本さん)

その理由は古田牧場で生産される生乳の乳脂肪分の高さにある。年間を通して4%ほどをキープしているので、他の脂肪分や添加物を加えずに、生乳100%でおいしいソフトクリームができあがる。味わいはコクがありつつ後味すっきり、上品な口溶けだ。代表格の｢バニラ｣と、黒と白でホルスタイン種の見た目をイメージした｢ホワイトチョコ｣、｢メロン｣は季節限定品で、時期によって味が変わる。

｢生乳本来の風味を楽しんでいただきたいという気持ちで、ごまかし無し･馬鹿正直につくったソフトクリームです。ぜひご賞味ください｣(古田さん)

お礼の品として根強い人気がある｢士幌高校アイスクリーム｣は、士幌高校の生徒たちが校内の牛舎で飼育する乳牛(ブラウンスイスとホルスタイン)の生乳を使用し、校舎に隣接した食品加工施設で製造している。

乳牛の飼育や搾乳を主に担当するのは｢アグリビジネス科｣の生徒たち。乳牛たちが快適に暮らせるように牛舎や寝床をきれいに保ち、丁寧なブラッシングを行うなど飼育環境に配慮。この取り組みが評価され、2018年には全国の高校で初めて｢アニマルウェルフェア認証｣を取得した。

アイスクリーム製造は｢フードシステム科｣の課題研究の一環で行われる。｢学校で搾乳した新鮮な生乳を使用しているので濃厚だけど後味すっきり、優しい甘さのアイスクリームができました。チョコチップやきなこを入れて、味変するのもおすすめです｣(フードシステム科 齊藤里奈さん)

士幌町の乳製品の中でひときわユニークな商品が、新鮮な生乳でつくられたペット用のおやつ｢ミルクドライヨーグルト｣である。

開発を手掛けたのは約200頭もの乳牛を飼育する｢十勝くわばら牧場｣の桑原寛晃さん。きっかけはモンゴル人スタッフがつくってきてくれた｢アーロール｣という伝統的なおやつだった。

｢ヨーグルトを干してつくる保存食で、高タンパクで乳酸菌たっぷり。これはペットのおやつにピッタリだ!と思ったんです。大切な家族の一員の健康維持に役立ててもらいたいと、この商品を開発しました｣(桑原さん)

自分たちの牧場で搾乳した生乳と乳酸菌だけを使用し、すべて手作業で製造しているので数に限りがあるそう。気になる方はお早めに!

約900頭の肉牛を飼育する｢渡邉肉牛牧場｣。ここでは親子二世代が協力しながら、健康で良質な牛を育て、安全でおいしい加工品販売を行っている。エサには自家生産したグラスサイレージ･デントコーンサイレージ･乾牧草をふんだんに使用。これを牛の体調を一頭ずつ確認して量を増減しながら給与する。敷料(牛の寝床に敷くもの)であるおがくずの交換は牛床の状態や牛の気持ちを考えて行い、夏の暑い日には大型扇風機を設置して、牛たちにとって快適な環境づくりを心がけている。

加工品の販売を担当するのは製造責任者の渡邉かなみさん。大学で得た食品加工の知識を活かして、自らレシピの考案や加工を行う。

｢ビーフハンバーグは化学調味料や添加物を使わず、シンプルに塩とコショウで肉本来のおいしさ、赤身の旨みを活かした優しい味付けにしています。卵･乳･小麦も使用していないので、アレルギーを持つお子さんにも安心してお召し上がりいただけます｣(渡邉さん)

最後に紹介するのは、十勝管内の肉牛品評会で何度もチャンピオンに輝いている｢多田畜産｣の｢北秀牛｣。

｢心がけているのは、牛たちがのびのび育つような、清潔で快適な環境づくり。エサは独自に配合した発酵飼料で、いつでも好きな時に食べられるようにしています｣(多田秀信さん)

北秀牛は脂身少なめの赤身肉だが旨みをしっかりと感じられ、箸を持つ手が止まらないほど。お礼の品ではロースやカルビなど焼肉用の牛肉のほか、ローストビーフやハンバーグが人気。胸焼けしない本当においしい牛肉を求めている人にぜひともお届けしたい。