総力取材記事

海・山・いで湯のまちの贈り物 鮮度◎のホタルイカ、松葉ガニ 名牛「但馬牛」に気鋭の地酒も

海・山・いで湯のまちの贈り物 鮮度◎のホタルイカ、松葉ガニ 名牛「但馬牛」に気鋭の地酒も

自然豊かな「おんせん天国」海・山・里グルメも豊富

名勝地であり、古くから北前船の寄港地として栄えた諸寄港(もろよせこう)。日本遺産にも認定されている
但馬地方の夏の風物詩である漁火。夜になると沖合に連なるイカ釣り船が幻想的な光を放つ
山陰海岸ジオパークの海では、カヤック体験も
秋が深まると、上山高原(うえやまこうげん)には一面のススキ野原が広がる

兵庫県北部、但馬地方にある新温泉町は、北は日本海、南は氷ノ山後山那岐山国定公園の1000メートル級の山々に囲まれた風光明媚なまちだ。
リアス海岸が続く海沿いの景色は爽快で、地質学的にも貴重なことから、「山陰海岸ジオパーク」として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界ジオパーク」に認定されている。南に連なる山々は美しい稜線を描く。
また、インパクトのある町名が示す通り、「おんせん天国」でもある。町内には、高温と豊富な湯量で知られる「湯村温泉」をはじめ、「浜坂温泉」に「七釜温泉」、「二日市温泉」と泉質が違う4つの温泉がわき出ているのだ。湯村温泉と浜坂温泉のお湯は、町内の約1200世帯に配湯されているのも驚きだ。
そんなまちのふるさと納税の返礼品は実にバラエティー豊か。「松葉ガニ」にホタルイカといった魚介類、1300年以上の歴史があるという「但馬牛」、山あいの肥沃な大地と清流を生かして栽培される米や野菜……海・山・里のグルメが網羅されているのだ。

“生"で味わう「浜ほたる」カニはシンプルにボイルで

「ホタルイカも松葉ガニも鮮度に自信あり!」浜坂漁業協同組合 川越一男組合長
ホタルイカは鮮度が命。「プロトン凍結浜ほたる」は、人気の返礼品だ

まずは、まちを代表する海の幸、ホタルイカから紹介しよう。この小ぶりでプリプリの春の味覚は、実は兵庫県が水揚げ量日本一。浜坂漁業協同組合に所属する浜坂漁港では、毎年1月から5月にかけて約2000tが水揚げされる。
夜明け前に漁港を出港し、夕方まで操業する。漁法は底引き網漁で、目が細かく、サイズが大きい専用の網を使う。浜坂で水揚げされるホタルイカの売りは、なんといっても鮮度。獲れたてのホタルイカを船上で生のままパック詰めした「浜ほたる」は、鮮度が保たれた状態で出荷される。
その「浜ほたる」を「プロトン凍結」という特殊な技術で冷凍することで、1年中、鮮度抜群のホタルイカを楽しめるようになった。流水で解凍すれば、刺身でも食べられるのだ。
解凍したイカにそのままかぶりついて内臓の苦みを味わうのもよいが、組合長の川越一男さんのおすすめは刺身。「手間はかかるが、開いて内臓を取り、しょうゆとわさびで味わうのが最高。足は集めて『竜宮そうめん』として食べるとおいしい」。返礼品では船上で漬けた沖漬けや佃煮も人気という。
ホタルイカを上回る浜坂漁協の水揚げトップ、「松葉ガニ」も忘れてはいけない。ズワイガニのオスのことだが、川越さんによると、浜坂漁協は日本有数の水揚げ量を誇り、11月上旬の漁解禁から翌年3月下旬まで、毎年約40万枚が獲れるという。ブランド化にも力を入れ、昨年、兵庫県沖と島根・隠岐の島東方の海域で獲れ、「かにソムリエ」が認定した松葉ガニを「浜坂がに光輝」と命名。厳正な基準で審査されるため、昨シーズンは20枚ほどしか認定されなかった。
「光輝」とまでいかずとも、伝統の漁場で獲れた松葉ガニは身が詰まり、食べ応え十分。「シンプル・イズ・ベスト。漁協のプロが目利きし、絶妙のゆで加減でボイルしたカニにかぶりつく」のが、川越さんの推しだ。寒い季節なら、カニすきにして、カニ味噌を入れるのも濃厚で美味なのだとか。

日本有数のズワイガニの水揚げを誇る新温泉町。「松葉ガニ」と呼ばれるオスは、身がギュッと詰まっている
毎年11月中旬に開かれる「浜坂みなとカニ祭り」は、多くの人でにぎわう(写真は過去の祭りの様子)

良質なサシにこだわり肥育口の中でとろける旨さ

但馬中井畜産の中井崇泰さんはあっさりとした上質な「サシ」を追求。「おいしいので食べてみてください」
但馬牛は「赤身と脂の旨さ」の絶妙なバランスが特徴。きめ細かく入った「サシ」は芸術的だ
たじま農業協同組合肉の店本店の田村嘉教店長。「但馬牛はすき焼きやしゃぶしゃぶも間違いないです」

次におすすめしたいのが、黒毛和牛「但馬牛」だ。神戸牛や松阪牛、近江牛など全国各地の銘牛の99%以上が但馬牛の血を引いているという。新温泉町がある美方郡では、古くから人間の戸籍にあたる「牛籍簿」を作成して但馬牛を管理、育種改良しており、そのシステムは2019年、農林水産省から日本農業遺産に認定された。
もともと美方郡は交配した子牛を売る繁殖農家が多かったが、近年では、繁殖と肥育を一貫して行う農家も増えている。明治時代から畜産業を営む「但馬中井畜産」もその一つ。5代目の中井崇泰さんは大学を卒業後、別の牧場で肥育について学び家業を継いだ。
中井さんは、生後8、9ヵ月の子牛を34、5ヵ月程度まで育てて出荷する。「食べ止まりがないよう成長に合わせて餌の与え方を工夫しています」。中井さんが重視しているのは、「脂」に着目した肥育だ。良質な「サシ」(霜降り部分)にこだわり、「脂が苦手な人でも何枚でも食べられるあっさり感」を目指す。新型コロナウイルス感染症の影響でインバウンドの消費が冷え込む中、「今こそ国内の消費者においしいと言ってもらえる牛を育てたい」と意気込む。
中井さんら肥育農家が育てた牛は、たじま農業協同組合肉の店などが全国に送っている。肉の店本店店長、田村嘉教さんに但馬牛の特徴を聞くと「脂の質が違う。旨み成分のオレイン酸が多く、融点が低いため、口の中でとろけます」と教えてくれた。厨房で肉の塊を見せてもらうと、切り口の霜降りが美しい。薄くスライスされて並べられると、芸術品のようだった。

98度、豊富な湯量に驚き氷温熟成但馬牛に舌鼓

人気の滝風呂は、水着で入れるのがうれしい。眼下には、湯村温泉の温泉街が見渡せる
98℃と高温の源泉「荒湯」で作ったゆで卵は、観光客らに人気だ
緑に囲まれた湯村温泉。NHKドラマ「夢千代日記」のロケ地としても知られている

「おんせん天国」を体感したければ、山あいにある湯村温泉へ。温泉街の中心にある元湯「荒湯」の温度はなんと98℃。余った温泉は側溝や川に流れ込むため、冬は温泉街のあちこちで湯けむりがたちこめる。
湯量が豊富で、荒湯だけでも1分間に470l、約60ヵ所ある泉源を合計すると、1分間に約2300lの湯がわき出ているという。地元の人々にとっても温泉は身近で、荒湯近くの「湯壺」は、山菜やカニなどをゆでるのに使われている。
町の第三セクター、「温泉町夢公社」が運営する「リフレッシュパークゆむら」は、温泉の源泉を利用した屋内風呂、露天風呂、温水プールを備えた「おんせん公園」。プールの温度調節や冷暖房には温泉の熱を利用。1986年のオープンから変わらない「エコな施設」(支配人の長谷坂篤幸さん)だ。
人気は、水着を着用して入る5種類の混浴露天風呂。山の斜面を利用して造られ、滝風呂や洞窟風呂などがある。社長の猪坂悦司さんは「温泉には肌の角質を取ってくれる重曹が含まれています。緑の中のお風呂は気持ちいいですし、雪が降る冬もおすすめです」。
返礼品では、パークの利用券と隣接する「レストラン楓」の食事券をセットで提供する。レストランでは、氷温庫で2週間以上保存した但馬牛の熟成肉がステーキで味わえる。ぜひやわらかさと旨みが増した肉を堪能してほしい。同社は、全天候型のスポーツ施設やログハウスなども運営している。
実力派の返礼品がそろう新温泉町。返礼品で自然の恵みを味わい、いずれは訪れてまちの魅力を体感してほしい。

レストラン楓では「氷温熟成但馬牛」が食べられる。西澤茂巳(にしざわしげみ)店長の焼き加減は絶妙だ
リフレッシュパークゆむらを運営する温泉町夢公社社長の猪坂悦司さん(左)と支配人の長谷坂篤幸さん

「但馬杜氏」のふるさとで50年ぶりの酒造り

「但馬杜氏」のふるさと、新温泉町で約50年ぶりに酒造りが行われた
文太郎社長の岡本英樹さん。酒蔵のタンクは、前身の酒造会社のものを使っている
(左から)芳醇な香りの「いで湯美人」に上品な飲み口の「文太郎」、12年かけて熟成された古酒「単独行」

2019年2月、日本四大杜氏の一つ、「但馬杜氏」を多く輩出してきた新温泉町で、約50年ぶりに本格的な酒造りが始まった。
京都府京丹後市の酒造会社を移転した酒蔵は「文太郎」。新田次郎の小説『孤高の人』のモデルにもなった町出身の登山家、加藤文太郎からつけた。
仕掛けたのは元町長で文太郎社長の岡本英樹さん。高齢化などで但馬杜氏が減少する中、「技術を伝承したい」と酒蔵の開設に奔走した。そして、同町在住で「現代の名工」に選ばれた田村豊和さん、全国品評会で10年連続金賞を受賞した森口隆夫さんを迎えた。
2人には、経験に裏打ちされた技術がある。文太郎の酒米は兵庫北錦と五百万石を使っているが、昨年は猛暑などの影響で米の出来が悪かった。2人は米を見た瞬間に「硬い」と見抜き、水の漬け方などを工夫して酒造りを進めた。岡本さんは「経験で積み上げられたものは、コンピュータやAIを超えたものだと思った」と振り返る。
熟練した杜氏によって仕込まれた酒は、すっきりとした辛口で、上品な飲み口だ。「妥協せずに造ったこだわりの酒を味わってほしい」(岡本さん)

ふるさと納税寄附金はこんなことに使われています!

ふるさと納税の寄附金は、図書館の図書購入などに使われている
ふるさと納税を担当する新温泉町の皆さん

新温泉町は2018年度から、ふるさと納税の寄附に対する返礼品の送付を始めた。当初から21事業者が参加し、18年度は2060件、約6300万円の寄附が集まった。19年度は5829件、約1億4200万円と増え、新型コロナウイルス感染症の影響で巣ごもり消費が増えた20年度は、7月末で2007件、約5160万円と順調に伸びている。
これまでに寄せられた寄附金の使途は、町の子どもたちの健全育成や山陰海岸ジオパーク推進、農水産物振興など。子どもたちの健全育成では、子どもの医療費無償化や図書館の図書購入などに活用されている。
現在は22業者が約200品を提供する。松葉ガニなどの水産物や鴨鍋セット、但馬牛が人気だが、今年は米も好調だ。返礼品はバラエティーに富むが、悩みは町の知名度。商工観光課の商工振興係長、桶本安弘さんは「返礼品を通して町をPRできたら」と期待する。

新温泉町のお礼の品のクチコミ

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自治体情報

兵庫県新温泉町(しんおんせんちょう)

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